県南生涯学習センターでは、地域の未来を担う子どもたちの知的好奇心に応え、夢や希望を育む「いばらき子ども大学」県南キャンパスを、今年度も開講いたしました。令和7年度は7月から11月にかけて5回の通常授業と2回の特別授業、計7回のプログラムを実施します。
今年度も募集定員を上回る多くの熱心な子どもたちからお申込みをいただき、関心の高さを改めて実感しております。本レポートでは、各回ごとにその詳細な内容をお届けします。
記念すべき第1回授業は、開講式に続き、7月5日(土)に「フェイクニュースに惑わされない~真実の見極め方~」と題して開催いたしました。
事業内容の詳細:情報社会の「現在地」を知る
今回の授業は、日々大量の情報に触れる子どもたちが、その情報とどう向き合っていくべきかを学ぶ、非常に現代的かつ重要なテーマです。
講師として、茨城新聞社のNIE事務局(Newspaper in Education:教育に新聞を)から、澤畑和宏先生、小岩泰規先生、平野有紀先生の3名をお迎えしました。情報の最前線で活躍する「新聞記者」の先生方から、専門的な知識と実践的なスキルを学びます。
講座はまず、講師の先生方から「みなさんは、どんな時代を生きているのか」という問いかけから始まりました。
現代は、インターネットやSNS(交流サイト)、さらには生成AIの発展により、誰もが瞬時に情報発信できる「SNS社会」です。しかし、その一方で、私たちが手にする情報が「確かな情報ばかりではない」という現実が示されました。
誤った情報、悪意のあるニセ情報、本物と見分けがつかないディープフェイクなど、危険な情報が溢れています。
また、SNSや動画サイトのアルゴリズムが、自分の「好きなもの」ばかりを表示することで、無意識のうちに情報が偏ってしまう「フィルターバブル」という現象についても解説がありました。先生方はこの状態を「情報の偏食」と呼び、社会のあらゆる分野の話題がバランス良く掲載されている新聞は、いわば「バランス栄養食」であると例え、多様な情報に触れることの重要性を説きました。
情報が溢れる社会だからこそ、情報を正しく読み解き、正しく伝える力が求められており、時には「確かな情報が命を守る」ことにも繋がると、本講座の核心が示されました。
実践!記者体験:「ライオンが逃げた!」
講義の後は、学んだ知識を実践する「記者体験」が行われました。これは、情報と向き合う「こつ」を、記者の仕事を通して学ぶワークショップです。
子ども大学生に示されたのは、「おい、おい、近くの動物園からライオンが逃げたみたいだぞ!」という、写真付きのSNS投稿。
これは、子どもたちの命にも関わる大変な情報です。「情報の真偽を確かめて、本当なら速報しよう!」というミッションのもと、子どもたちはグループに分かれ、架空の新聞社を設立しました。
実際の記者の仕事と同じく、「作戦会議(3分)」「取材(5分)」「編集会議(5分)」「号外作り(10分)」「発表(5分)」というタイムスケジュールで、グループ活動が進められます。
「号外作り」にあたっては、新聞記事の基本構成も学びました。重要な情報から先に書く「結論が先」、記事の基本要素である「5W1H」、そして記事全体の内容を要約した「見出し」の付け方など、プロの技術を学びます。
見出しは「究極の要約」であり、「上田選手が決勝ゴールを決めた!」を「上田V弾」と短く表現する技術に、子どもたちからは感嘆の声が上がっていました。
各グループは、「取材」の時間に、講師の先生方(取材源)のところに駆け寄り、「動物園に電話しましたか?」「警察は把握していますか?」「写真の場所はどこですか?」と、鋭い質問を投げかけます。
そして「編集会議」で情報の真偽を議論し、自分たちの新聞社としての「号外」を作成、発表しました。
衝撃の「答え合わせ」と、情報を見極める「4つのアイテム」
全てのグループが発表を終えた後、先生方から「答え合わせ」がありました。 実は、この「ライオン脱走」のSNS投稿は、2016年の熊本地震の直後に実際に投稿され、社会を混乱させた「フェイクニュース」だったのです。
投稿した人物は、動物園の業務を妨害したとして「偽計業務妨害」で逮捕されたという事実が明かされ、子どもたちは情報の「重さ」を実感した様子でした。
「もし、みなさんがこの情報を確かめずに『いいね!』や『リツイート』をしたら、どうなっていたでしょう?」という先生の問いかけに、子どもたちは真剣な表情で考え込んでいました。
最後に、先生方は、私たちが情報の溢れる「情報の森」を冒険するために必要な「4つのアイテム」を教えてくれました。
- 「盾」(たて): 情報を「まるのみにしない」こと。一度立ち止まって、慎重に考える姿勢。
- 「スコープ」: 「発信者はだれか?」を確かめること。名前や会社名がはっきりしない情報は疑う。URLが本物か、過去にどんな投稿をしているかを確認する癖をつける。
- 「ひかり球」: 「暗がりも見よう」ということ。全ての情報は「切り取られた」一部である可能性を疑い、報じられていない背景(例えば「桃太郎」を「鬼」の視点から見る)を想像する力。
- 「仲間」: 迷った時に「この情報、信じていいかな?」と一緒に考えてくれる仲間(家族や友達)と助け合うこと。
先生方は、これら4つの力は、日頃から新聞を読むことで鍛えられると締めくくりました。
まとめと今後の展望
今回の授業では、子ども大学生から、
- 「フェイクニュースの悪いところ、注意することを学べた」
- 「新聞記者体験は、すごくわくわくして楽しかった。情報というのは正しくないこともあるので、しっかり本当かどうかをこれから毎回確かめるようにしたい」
- 「私は元々、あまり新聞を読んだことがなかったけど、これからは少しずつ読んでみようかなと思った」
などの感想が寄せられました。
単なる知識のインプットに留まらず、「記者体験」という実践的なワークショップを通して、子どもたちが主体的に「情報との向き合い方」を考え、その重要性を自分事として捉えられたことが、寄せられた感想からも伝わってきます。
県南生涯学習センターとして、子どもたちがこれからの情報社会を生きていく上で不可欠な「メディアリテラシー」の基礎を、プロフェッショナルから直接学ぶという、大変貴重な機会を提供できたことを嬉しく思います。
澤畑和宏先生、小岩泰規先生、平野有紀先生、誠にありがとうございました。
いばらき子ども大学 県南キャンパスは、今後も子どもたちの知的好奇心を刺激する多様な学びの場を提供してまいります。